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三次簡易裁判所 昭和36年(ろ)12号 判決 1961年12月16日

被告人 高下晃一

昭一〇・三・五生 自動車運転者

主文

被告人を、罰金七、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、二〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は芸備トラツクセンターの自動車運転者であるが

第一、法定の除外事由がないのに、昭和三六年七月三日午前一〇時三五分ごろ、貨物の積卸しのため、広島県三次市十日市町ハヤシ写真館前道路に、広四あ〇九二二号小型四輪貨物自動車を停車するに当り道路の右側端に沿つて停車し、できる限り、その左側端に、他の交通の妨害とならないように停車しなかつた

第二、昭和三六年七月一〇日午前六時三〇分ごろ、前記貨物自動車(車長四・二六メートル、車幅一・六九メートル)突車の荷台の枠(高さ〇・四五メートル)の、後ろ側をチエンで後方にたおしたまま運転し、三次市三次町本通筋(道路の幅員五・五メートル)を、太才町方面から巴橋方面に向け進行し、三次信用金庫前の交差点(丁字路)におて、右折し、一旦フードセンター横の小路にはいり、後退して再び本通筋を巴橋方面に向け進行しようとしたが、当時早朝のため、車馬の交通は殆んどなく、閑散であつたが、同交差点の周辺には、人家連たんし、左右の見とおしがきかないのみか、荷台上にホウダツ(高さ〇・七メートルの枠板)を取り付けていたため、左側後方の注視が全くきかず、巴橋方面から進行し来る車馬との接触衝突を回避することは極めて困難な状況だつたので、このような場合、自動車運転者たる被告人としては、できる限り、自動車を交差点の北角(前示信用金庫の正面玄関前で、道路と接続一体をなし、一般の通行に供されており、自動車の通行も可能である)に寄せ、車尾が、本通筋道路の右側端に沿つて後退するよう除行運転し、後方を通行する車馬との接触衝突による事故の発生を未然に阪止しなければならない業務上の注意義務があるのに、右注意義務を怠り、運転台右側の窓から首を突き出し、時速二キロぐらいで、右側後方を注視しながら、そのまま後退し、車尾を、交差点(本通筋道路上)の中心附近まで後退させて、方向転換しようとした過失により、折柄、本通筋を、巴橋方面から右交差点に向け進行して来た、新矢一美(当四〇年)の運転する第二種原動機付自転車に、自車の後部を衝突させて転倒させ、その結果。同人に、治療に約二週間を要する、左腸骨節擦過傷右膝関節副紐帯伸展及び右肘左拇指擦過傷の傷害を負わせ

第三、昭和三十年九月四日午後三時三〇分ごろ、前記小型四輪貨物自動車を運転し、三次市三次町本通を、同市十日市町に向け進行中、先行の備北交通所属の乗合自動車が、山田バス停留所前に停車したので、その後方を追尾していた乗用自動車に続き、一旦その後方に停車し、暫時待ち合せた上、停車中の右先行の乗用自動車及び乗合自動車の右側(有効幅員二・五メートル)を進行し、その前方に出ようとして発進したが、このような場合、自動車運転の業務に従事する被告人としては、右乗合自動車の前方が見とおせないので、絶えず進路の前方及び左右を注視し、かつ、何時にても、直ちに停車し、衝突等の事故の発生を回避し得べき程度の速度で進行し、衝突接触による事故の発生を未然に防止しなければならない業務上の注意義務があるのに、右注意義務を怠り、漫然右乗用自動車の右側に出で、時速約一七・八キロで左右両側との接触等にのみ気をとられて前方注視を怠り前示乗合自動車の前方に出た過失により、折柄右乗合自動車の前方を、道路の左側から右側に向け、歩行横断中の、井川スミエ(当五五年)を発見することができず、自車の左側を、同女に接触させて転倒させ、その結果、同女に対し、治療に約二週間を要する、右上膊打撲傷及び同足の捻挫の傷害を負わせ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の当公廷における供述

判示第一事実

一、司法巡査作成の犯罪事実現認報告書

判示第二事実

一、証人新矢一美の当公廷における供述

一、医師荒瀬秀隆作成の診断書

判示第三事実

一、司法巡査作成の井川スミエ供述調書

一、医師堀川澄和作成の診断書

判示第二、第三事実に共通

一、当裁判所の検証の結果

(法令の適用)

被告人の判示第一の行為は、道路交通法四七条に違反し、同法一二〇条一項六号に該当し、又判示第二、第三の各行為は、いずれも、刑法二一一条前段(罰金等臨時措置法三条一項適用)に該当し、罰金刑を選択処断すべきのところ、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により、各罪につき定められた、罰金の合算額の範囲内において、主文第一項の刑を量定し、罰金不完納の場合の労役場留置につき、同法一八条一項、訴訟費用の負担免除につき、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用する。

よつて、主文のように判決する。

(裁判官 樫本能章)

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